運転手たちに囲まれ、料金交渉がはじまった。ひとりが九十バーツといい、僕が五十バーツでどう……と値切る。少しの沈黙があり、ほかの運転手は六十といって手を挙げた。そこで手を打つか、と頷こうとすると、横にいたおじさん運転手がこういったのだった。「ひとり三十バーツでどうだい」そこでまた一瞬の沈黙があった。三十バ−ツ?安いではないか。しかし僕らは三人いる。……ということは九十バーツ。どっと笑いが起こった。せっかく九十バ−ツを六十バーツまで値切ったというのに、これでは元通りである。
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運転手たちが声をたてて笑った理由はなんだったんだろうか。場の状況をつかんでいなかったぼけたおじさんを笑ったのだろうか。あるいは僕らをからかって笑い声をたてたのだろうか。すると調子に乗ったほかの運転手がおどけた顔で口を挟みはじめるのだった。「ひとり五十だ」これでまた笑うのである。こうして今度は値段があがりはじめる。タイ人はどこか人生を遊んでいるようなところがある。料金は六十バーツで決まっているのだが、それを肴に遊ぶのである。暮らしの余裕かおるのかもしれないが、刺々しさがすーッと消え、こちらの頬もつい緩んでしまうのだ。人生を甘く見ている気がしないではないが……。