遠目からも頭の地肌が見える

2011.03.31

その二年間のうちに、わたしの脱毛はどんどん進み、遠目からも頭の地肌が見えるくらいまでになっていました。このことは、わたしが大学病院の治療に不満をもっているという意味ではありませんので念のために。もし、大学病院で治療を受けていなかったら、いま考えると、わたしは支えを失い自殺していたかもしれないと思うからです。そのころから、わたしはベレー帽をはじめとして、頭にいつも着けていておかしくない帽子を愛用するようになりました。しかし、帽子をかぶるとかえって頭がむれて、脱毛を増悪させたような気もしています。母はいろいろ心配をして、付け毛やかつらを買ってくれたりしました。やがて、わたしは大学にいってもすぐに帰宅して、友人とつきあうこともなく、外出は極力ひかえて家のなかに閉じこもり、スーパーに買いものにいくこともしなくなりました。大学病院にいかなくなったのも、外出するのが苦痛になったからです。それに、大学病院にくる患者さんのなかには、わたしより悪い方が何人もいらっしゃいましたし、症状のほうも安定していたためです。外出をしたとき近所の人から、「帽子がお似合いね」などといわれると、〈ほんとうは大笑いしているんだわ〉とかんぐってしまい、気持ちが沈んでしまうのです。かつらを着けたときも、〈まわりの人は、わたしがかつらを着けているほんとうの理由を知っているかもしれない〉という気持ちが働き、そうした視線を受けているように感じました。だから家のなかにいるのがいちばん安心だったのです。そのかわり、家事は一生懸命しました。就職も希望はいろいろありましたが、帽子やかつらを着けて面接にいくわけにもいかず、かといって家にずっといるのも不健康だということで。叔父のやっている商店の仕事をときどき手伝うことになりました。わたし自身も、自分から新しく皮膚科へいくようなことはなく、ただひそかに悩んでいるだけ。〈そのうちに、精神科へでもいかなくちゃならないのでは……〉と自分で心配するほど暗い生活を送っていました。
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