内科医としての仕事のほかに、小説家としての生活もあり、どちらも体はほとんど動かさず、頭ばかりを働かせている。以前、テレビのコマーシャルで、「頭ばっかりでも体ばっかりでもだめよね」という歌があったが、まさにこの歌の教えるとおりであった。要するに、私の体の中を流れる百姓の末裔の血が反乱を起こしたのである。季節のめぐりに合わせて麦を刈り、ジャガイモを掘り、稲を刈っていた生活を捨て、白衣なんか着て聴診器とペンしか持たないような生活をしていたから罰が当だったのである。しかし、だからといって、もう一度百姓に戻るのは不可能である。畑も売ってしまったし、私はどうすればいいのだろう。「とりあえず、もう少し体を動かすことですね」と、心療内科医は笑った。分かってはいるのだが、ただなんとなく体を動かすということが実行できない。これも百姓の血のせいかも知れない。百姓が体を動かすのは労働という目的があるからであり、散歩ばかりしている百姓なんて聞いたこともない。要は貧乏性なのであり、なにか明らかな目的がないと体を動かす気になれないのである。天災は忘れた頃にやって来る。農業を忘れ、労働の本質を忘れていた私は今、痛烈なしっぺ返しを受けているのである。もう一度、百姓の末裔としての誇りを取り戻さなければならない。